昭和・夢幻の女

「世の中は不公平にできている。
たとえば、金持ちに美人はつきものだ」。
高級ドイツ車のディーラーをしている奥野純一の口癖だ。
今日訪ねる青山裕一郎も金持ちだった。
レストランのフランチャイズ経営で儲けているという。
半年前に2000万円もする車を買ったばかりなのに、今度は妻の誕生日に高級車を贈りたいという。
納車するためにやってきた成城の邸宅は純和風だった。
玄関から声をかけると、40代とおぼしき和服美人が姿を現す。
裕一郎の妻・ゆり子だ。
そう若くはないが、細身の身体に、白い牡丹が描かれた銀鼠地の着物を雅やかに着こなしている。
その姿全体からは気品がこぼれていた。
日頃、美人を見慣れている純一にとっても、息を呑むほどの美しさだった。
どこかでこの人の声を聞いたことがある。
純一は記憶を辿って思い出す。
そう、ゆり子は20年以上前、純一の父の愛人だったのだ……。

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